弁護士はお客様によって作られます
顧問弁護士をつけることのメリットとして言われているものはいくつかあります。その中の一つに,こんなものがあります。
日常的に相談を受けることにより,弁護士側がクライアントの業界の論理に精通し,より適切なアドバイスをすることができる。
このことの意味を少し掘り下げてみます。
弁護士になるには,司法試験に合格し,司法研修所で研修を受けます。
司法試験の科目は,憲法,民法,刑法,民事訴訟法,刑事訴訟法,行政法,選択科目です。なお,最近の司法試験制度の改正で科目が変動しているようですが,私が受験した時は,以上7科目です。
司法研修所では,民事裁判,刑事裁判,検察,民事弁護,刑事弁護の5つの分野の研修を受けます。
これらの科目は,すべての裁判官,検察官,弁護士が共通で受けるものです。
つまり,どの裁判官,検察官,弁護士も(もちろん優秀さに程度はありますが),職に就いた段階で勉強した科目は同じです。
ここから弁護士業界に特化した話になります。
伝統的な弁護士像は,大きく分けて企業からの依頼を専門とする弁護士(企業法務)と,市井の市民から依頼を受ける弁護士(街弁)とに分かれます。
街弁は,扱う事件により,債務整理弁護士,交通事故弁護士,家事(家族の問題)弁護士,刑事弁護士などに区分できます。
とはいえ,下関のような地方都市ではそんなに扱う件数がありませんので,特定の分野に完全に特化しては事務所経営ができません。どの種類の事件も扱いますが,比較的○○の事件が多い,というくらいの差でしかありません。
このように,弁護士になるまでは同じ勉強をしていたにもかかわらず,多くの系統に分裂して進化していきます。
これは,次のような理由によります。
弁護士が扱うことのできる業務の範囲は極めて広いので,法律に関する業務であれば,基本的に何でも行うことが可能です。
弁護士のスキルは,業務の中で磨かれていき(OJT),継続的に同じ会社,同じ業界の業務に関与し続けていくと,その方面のノウハウが蓄積され,その分野に詳しくなります。
下関のような地方都市では,専門性に特化しづらいので事件の種類を問わずに受任することになります。ところが,ある程度経験年数を重ねると,なぜか一定の種類の事件が集まってきます。そうなると,その種類が弁護士の詳しい得意分野になってきます。
私の業務で言うと,もともと勤務していた事務所では借金問題や企業の問題が多かったのですが,今では高齢者の財産をめぐる事件や家事事件の割合が多くなっています。特に何かを狙って選んだわけではなく,依頼される案件をなるべく断らずに受任してきた結果ですので,時を経れば変わるかもしれません。
このように,可変性に富む弁護士ですが,お客様からすれば,最初から今抱えている事件に詳しい弁護士をとご要望されるのはもっともなことです。実際よく聞かれます。
ただ,会社関係であればともかく,一般の市民の方が巻き込まれる種類の事件では,ある程度の年数を経ていれば,どの弁護士もそれなりの件数を扱っており,ノウハウが全くないということはほとんどありません(ただし,医療事故,渉外,特許などのいわゆる専門的訴訟案件は除きます。)。
これに対して,会社の問題の場合は異なります。その会社の内部の問題,その会社が属する業界の問題その他の知識がなければならず,単に会社法を見れば解決するというものではありません。業界特有のの業法,会社内部の規則(定款,就業規則,退職金規程など明文化されたものばかりでなく,慣習として明文化されていないものも含む。),人間関係,社長の人となりなど,諸々のものを考慮し,法律に照らし合わせてギリギリの判断をしなければなりません。
これは,継続的にその会社の仕事をしていなければ分かりようがありません。
逆に,そのあたりの会社の内部事情まで精通してしまえば,その会社にとってオンリーワンの顧問弁護士ができあがります。
このようにして,顧問弁護士という選択肢を通じて,御社を一番理解している弁護士に依頼できるという考え方もあるのではないでしょうか。