弁護士に依頼することのメリット・デメリット
調停や裁判に代理人として出頭するときに、反対当事者、つまり相手側は弁護士に依頼せず自分で参加してくるが少なからずあります。
「一方が弁護士、もう一方が本人では楽勝でしょう。」と言われることもありますが、決してそんなことはありません。
本人訴訟・本人調停特有の難しさがあります。
そんなことから、今日はこのテーマについて話してみようと思います。
弁護士をそもそもみんな依頼している?
まず、自分で訴訟をすることを、本人訴訟といいますが、
この本人訴訟は、実際にはどのくらいあるのでしょうか?
統計によれば、日本の民事訴訟における本人訴訟の割合は、
地方裁判所では約53%、
簡易裁判所では約94%だそうです。
(令和2年度司法統計)
少し前の統計ではありますが、現在とそんなに変化ないでしょう。
地方裁判所の裁判でさえ半数が弁護士に依頼していないのですね。
さらに、これが簡易裁判所での事件となると、訴額の低さの問題もあるでしょうが、
ほとんどを弁護士なしで、当事者本人が訴訟を行っていることになります。
私の体感的には、簡易裁判所が94%というのはちょっと信じられないところではあります。
一方が弁護士に依頼すれば、もう一方も弁護士に依頼することが多いからでしょうか?
調停の場合は訴訟よりも一層弁護士なしの割合が多いように感じられます。
弁護士に依頼するデメリット
まず、通常、どこの事務所であっても、弁護士に依頼すると最低11万円~(旧弁護士報酬基準の最低額)の着手金が必要となります。
すると、請求額が11万円以下の場合には、それだけで“赤字“になってしまいます。
(そのために弁護士費用保険があり、実際に保険がかかっている交通事故案件では、訴額が11万円以下の物損事故でも訴訟にまで至ることが少なくありません。それはそれで裁判所の事件像かにつながっています。)
また、請求額が30万円や50万円でも必ず勝てるとは限りませんし、和解が成立する可能性もあります。
そうなれば、多額の弁護士費用を支払ってまで果たして手に入れるべき金額なのか、経済的合理性の面から疑問がある事案も少なくありません。
そのうえ、法律事務所に何度か通い、弁護士と細かな打ち合わせを開く必要があります。その時間的な負担もあります。
弁護士に依頼するメリット
これに対して、弁護士に依頼をするメリットは、何より専門家へ任せることができ、時間や労力の負担から解放されるという点があります。
(1)時間と手間
裁判・調停は基本的に期日間に書面を作成して提出し、期日に追加で宿題が出て、次の期日までにまた書面を作成して・・・というのが続きます。
この書面を作成するだけでも相当な時間と手間がかかります。
その時間と手間を肩代わりできます。
(2)精神的安心感
一緒に出頭してくれるという精神的な安心感も多いのではないでしょうか。
(3)時間的拘束からの解放
また、期日への欠席という時間的拘束ことがなくなります。
実際、裁判や調停は、平日に開かれますので、出席しようにも仕事や子育てなどで時間がとれず欠席せざるを得ない場合や、失念してしまうこともあると思います。
しかし裁判や調停を無断で欠席すると、心証を悪くしますし、場合によっては、相手の主張をそのまま認める欠席判決がなされるかもしれません。
それはそれで相手方代理人としてはありがたいのですが。
期日に出頭した当事者の言い分、判断材料がやはり裁判官の心証形成にはインパクトがあるでしょうから、
当事者本人が書面を出したとしても、それは通じにくいでしょう。
法律家が書いた書面ではないので、期日に出て主張で捕捉をする必要もあるかもしれません。
弁護士に依頼したほうが“勝つ“?
これに対して、勝率という点ではどうでしょう?
2010年の統計によれば,「原告の勝率」で言うと、
原告と被告双方に弁護士がついた場合は67.3%,
原告と被告双方が本人訴訟である場合は67%、
原告が本人訴訟で被告にのみ弁護士がついた場合は32.4%,
原告にのみ弁護士がついて被告が本人訴訟の場合は91.2%
とのことです(司法研修所『本人訴訟に関する実証的研究』参照)。
とはいえ、何をもって「勝ち」と言えるかは問題です。
あくまでこのデータは、原告の勝訴判決をもってのデータですが、
実際の裁判では、どこに着地をさせるか?が重要になってきます。
事案によってあるべき着地点というものがあります。
たとえば、「このぐらいで和解しよう」というのが、本人訴訟の場合、漂流してしまうのです。まとまるべき和解がまとまらないのです。
本来なら、たとえば最短で半年くらいで終わる事件が、漂流してしまうと、エンドレスに期日が続いてしまうのです。
それは、当事者本人にとってもストレスにもなるでしょう。
実際にありうる相談として、例えば、弁護士に依頼せずに一審をすすめてきたが、裁判所からの和解案で100万円をもらえる内容で打診があったが、和解に応じず和解案を蹴ったところ、判決では0円となった。控訴審からは弁護士に依頼できないか、というものがあります(架空事案)。
いったん0円の判決が出てしまってはそれをひっくり返すのは至難の業です。よほど特別な事情がない限り、当事務所では依頼をお断りするでしょう。
ほかの弁護士も大多数がお断りするのではないでしょうか。
弁護士に依頼する最大の意義
弁護士をつける最大の意義。
それは、弁護士が自分の言いたいことをまとめて整理して伝えてくれるパートナーであるということです。
言いたいことを主張することと、言いたいことを伝えることは、裁判・調停・審判では違うということです。
言いっぱなしでは分かってもらえません。
裁判所の手続は、一定の作法があります。
一例を挙げれば、本人訴訟ではえてして主張書面と書証としての書面とか区別されていません。
しかし、民事訴訟では弁論主義というルールがあり、主張書面と書証は厳密に区別しなければなりません。
作法に則らなければ、言いたいことも伝わりません。
あなたの言い分を作法に則って翻訳して伝えられる。そうすると、裁判官・調停委員は、あなたが何を言いたいのかを正確に理解してくれる。
そこが最大のメリットではないでしょうか。
調停になっているということは、双方言い分があり、それが食い違っているはずです。
訴訟になったということは、それまでも法的な問題が解決されずに先送りされてきたケースも多いのではないでしょうか。
そんな中で、ご自身の主張に、法的な根拠をつけてもらって、代理人に話をしてもらいましょう。
まずは、様々な法律事務所を回って、あなたの主張の代弁者、パートナーとなりうる弁護士を探してみて来て下さい。
当事務所でも、短時間の法律相談から承っております。