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片山法律事務所

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あるとき突然兄弟姉妹から数千万円を超える請求が来たら?【裁判編】

終活のトラブル

遺産分割協議において,使途不明金の問題は往々にして主張されます。

似たような問題に,「あるはずのものがなくなっている!」というものもあります。たとえば,タンス預金にあったはずの現金とか(1000万円以上をタンス預金してあったという主張に出会ったこともあります。),高級な絵画とかの動産類とかがなくなっている,といった問題です。これらは,追跡可能性の点で使途不明金以上に難しく,現物を探し出さない限りほぼ回収は絶望的です。

 

遺産分割では,被相続人の死亡時に現在する財産を分割することになるため,使途不明金は遺産分割の問題ではなく,別途訴訟で解決しなければなりません。

遺産分割調停の席上で使途不明金を主張すると,全相続人が使途不明金を遺産分割の対象とすることを同意すればともかく,一人でも同意しなければ,調停委員から「それはどうぞ別の訴訟で主張して下さい。」と言われてしまうでしょう。

 

訴訟ではどうなるのでしょうか。

学問的なことではなく,私の経験してきた事案を踏まえて考えてみます。もっと学問的に意味のある議論を調査したい方は,ちゃんとした論文や書籍にあたってください。

原告側は,過去の金融機関の取引明細をとりよせ,○月○日に○○円を引き出されている,ということを過去10年まで遡って延々と主張します。税金や病院代など明らかに被相続人のために使用された金額を除くことは当然ですが,それもよく分からないので,例えば10万円以上の引き出しを全部,などとまるっとした主張になってしまいます。

被告側としては,引き出したお金の使途を明らかにして,被相続人のために使ったことを主張・立証していくことになります。ちょっと学問的なことを言うと,委託の趣旨に合致する支出かとか,事務管理が成立して違法性が阻却されるか,とかの問題です。

しかし,現実問題として,過去10年間分の請求書・領収書・レシート等をすべて保管していることは,まずありません。税金は各種証明書,病院代・施設費用は領収書の再発行は可能でしょうが,それ以外の細かな支出に関しては絶望的です。とりわけ,差入に購入した衣服や食料品,おむつ代などの日常的な介護用品などは,普通は自分の買い物のついでにするもので,レシートを別途作成するよう,レジを通す際に別会計にするような配慮をしないものです。

その他,例えば庭木の剪定費用など,それなりに高額になりますが,忘れてしまいやすい支出もあります。冠婚葬祭ではそもそも領収書を発行してもらえないでしょう。

こうしてCさんは,弁護士からアドバイスされて病院代・施設代は領収書の再発行してもらい,市役所に行って課税金額を調査しましたが,その金額を合計しても2000万円にしかなりません。1000万円はどうしても何に使ったか思い出せません。

こうなってしまうと,1000万円部分については,Dからの請求が通ってしまうこともありえます。つまり,その2分の1(法定相続分)である500万円は今すぐ返せ,という判決がなされるかもしれないのです。

Cさんは,他から借金して500万円を作り,Dさんに支払わなければならなくなりました。

このCさんとは異なり,大部分の支払先を詳細に家計簿に残しており,レシートもすべて残してあれば,裁判には勝てるかもしれません。しかし,そんな争いごとに巻き込まれること自体が不利益です。親族間に深刻な不信感が残り,もはや元のような関係には戻れません。

 

ところで,私は,この種の裁判を何件か関与してきました。攻める側も,守る側も体験しました。

攻める方も守る方も,当事者ではなく(当事者はすでに亡くなっています。)お互いに明確な決め手となる証拠もないまま推測に基づき,雲をつかむような話で裁判をしなければなりません。それでいて期間が長い分,訴額が大きくなりがちです。当事者間の感情的対立も極めて激しく,容易に和解もできません。

仮に判決で1000万円を返せという判決がなされて勝訴したとしても,通常は現金で500万円もすぐに払えません。差し押さえるべき財産も普通はありません。判決は絵に描いた餅になります。

大変な苦労して裁判までして,結局なんだったのか?といったところです。

ですので,このような裁判に至らないよう,ご注意いただきたいと心から願います。

 

こうならないよう何ができたのでしょうか。事前の対策が極めて重要です。【予防編】に続きます。