従業員の前借りは多重債務のサイン?
当事務所では,自己破産の案件を取り扱っています。その中で,気づいたことがあります。
自己破産に至るまでの経過は,きっかけは様々ですが,多くの案件で途中からは同じような経過をたどります。
あるところから借金をして,そのお金を別のところに返済して,手元のお金がなくなったので別のところからお金を借りて・・・というのを繰り返します。これを多重債務状態といいます。
こうってしまうと,当の本人は視野が狭くなって,お金を返済することしか考えられなくなります。相談を受けた弁護士としては,もう破産くらいしか解決策はなく,免責不許可事由があるかどうかが関心事です。
しかし,当の本人は破産することを考えられない精神状態にあるかもしれません。配偶者やご両親,兄弟姉妹など親族に連れられて当事務所に来られる方もすくなくありません。さらに追い込まれる前に,周囲の人が「弁護士に相談してみたら?」とすすめていただくことが重要です。
そこで,多重債務状態を周囲の人が早期に見つけられないか,という点で考えてみます。
最も明確な端緒は,自宅に金融機関・消費者金融から請求書が届くことです。1,2社であればともかく,見たことのない郵便物が複数来るようになっていたら要注意です。
次に,債権者からの催促で携帯電話が頻繁に鳴ります。会社などで私用の電話を頻繁に受け取っている人はいませんか?おそらく周囲に聞かれるとまずいので,人気のないところで電話をとっているはずです。もしかしたら電話に出ないで放置して着信が多数ある状態かもしれません。
債権者によっては,勤務先の会社に電話を入れるところもあります。こうなっては末期的で,会社に迷惑がかかるとして会社を辞める人もでてきます。
これらは,周囲の人が気づいてあげられるサインです。
もうひとつ,会社の社長,上司などが気づくことができるサインがあります。それは,給料の前借りの申込です。
会社員が自己破産する場合,かなりの頻度で給料の前借りをしています。経験上,給料の前借りは,多重債務状態に陥ってから行われることが多い気がします。おそらく会社に借入を申し入れることがはばかられるので,先に自力で何とかしようと複数の金融機関から借入を行い,もう借りられなくなってから会社から前借りするからかもしれません。
会社としては,前借りに来た従業員に対し,前借りを何に使うのか,他に借入はないか,ほかに多重債務のサインがないか,よく事情を聞いてみるチャンスかと思われます。見方を変えれば,会社に救いを求めてきたとも言えます。
多重債務状態に陥った本人は,精神的に追い込まれてしまって,破産まで頭が回っていないかもしれません。
一度多重債務状態に陥ると,自力で挽回することはほぼ不可能です。ぜひ,会社側で気づいてあげてください。
そして,本人の気が進まなくても,弁護士に相談することをすすめてあげてください。