廃業のタイミング
新型コロナウイルス感染症対策のため緊急事態宣言などで人流が抑制されて、消費マインドも落ち込んでいます。報道では東京・大阪といった大都市ばかりが取り上げられており、地方経済はもっと目も当てられません。山口県の経済は持ち直しつつあるようなことを言っている統計もあるようですが、ここ下関の小規模法律事務所から見る限り,まったく体感がありません。経営者の方とお話しする機会に、地方経済は人口減少に伴う消費の減少は免れず、将来の展望がもてないため、もう事業を辞めようか、などと半分冗談・半分本気で口にされる方も一人二人ではありません。
そこで,廃業について考えてみます。今回は,いつ廃業したらいいのか,そのタイミングです。
いったん起業すると、従業員、取引先、銀行その他大勢の利害関係人が発生します。戦の勝敗は兵家の常であり、起業した会社の事業がうまくいくこともあれば、うまくいかないこともあります。一説によれば,開業から1年で約3分の1が廃業し,開業から5年で8割が廃業するなどという恐ろしいデータもあるようです。
ひとつ言えることは、利害関係人にかける迷惑を最小限にすることは、起業した人の責任と言えます。
まずは、誰かに事業を承継してもらうことを検討すべきでしょう。会社の経営者が入れ替わっても(株式の譲渡など。)、たとえ会社がなくなっても(合併など。)、会社の事業が存続すれば利害関係人に及ぼす影響は最小限にとどめられます。
しかし、業態的にそもそも先行きがない場合(IT革命によって多くの業態が変化を余儀なくされています。我々弁護士業界も全く人ごとではありません。)や、承継する人物が見つからない場合には、廃業を検討することになります。
とはいえ、廃業のタイミングを間違えれば、赤字は一層膨らみ、取引先に及ぼす損害が大きくなります。
加えて、廃業しても経営者は一人の人間として生きていかなければなりませんので、その個人財産をすべて会社の運転資金に回して一文無しになってしまう前に会社を辞める必要があります。タイミングを間違えなければ、良好な関係を維持して取引先に再雇用してもらうことも選択肢に入ってきます。
ここで最悪の事態=破産する場合を考えてみましょう。
破産するためには、法人成りしたほぼ個人事業主のような会社でも,法人分で80万円(破産申立費用40万円、裁判所への予納金40万円。)、代表者個人の破産で80万円(破産申立費用40万円、裁判所への予納金40万円)程度かかります。
つまり、最低でも160万円の資金がなければ、破産すらできないということです(実際には,消費税,官報広告費用など諸費用がさらに数万円かかります。)。 逆に言えば、手持資金がおよそ200万円以下になる前に破産を決断しなければなりません。
中小企業の経営者は、えてして頑張りすぎて手持資金が空になるまで営業を続けてしまいがちです。そうなると破産もできず、夜逃げ同然に会社をたたむことになり、取引先にも従業員にも多大な影響を与えることになります。
廃業するにしても、事業承継するにしても、手遅れになる前に実行しなければなりません。
弁護士に廃業を依頼する利点
弁護士は、廃業の究極的形態である破産手続にしばしば携わっています。破産を申し立てる側のこともあれば、破産管財人の側のこともあります。そのため、廃業業務をする際にも、常に破産手続であればどうなるかを念頭に置いて業務に当たります。
会社の財務状況が悪化してから会社財産を贈与したり、一部の債権者のみに弁済したりすれば(偏波弁済)、破産手続において否認されます。また、全部の債務を返済できない場合に、返済の順序を間違えると弁済を否認されることにもなります。そうなると、なけなしのお金をさらに作らなければなりません。
弁護士は、破産管財人として、日常的に否認されそうな行為に注意を払っています。怪しい自称専門家は、平気で否認される行為を提案することもありますが、損をするのは自称専門家ではなく、経営者自身です。
弁護士であれば、任意整理交渉が途中で頓挫した場合、速やかに破産手続に移行させることができます。そこで、任意整理交渉においても、「この案をのまなければ破産しますよ。破産したら配当は○円くらいですが、この案に応じてくれれば×円返済できますよ。」という押し方が可能です。