【言った・言わないのトラブル】口約束は危険です!裏付けとなる証拠はありますか?
よくある裁判の形として,「言った」「言わない」が争われることがあります。
いまどきはスマートフォンの性能があがってレコーダーを持ち歩かなくても良くなったため,会話が無断録音され,それが証拠として裁判上提出されることもしばしばあります。
しかし,日頃から会話を録音するような人は普通はいません。なんでもかんでも録音するような人とは気味が悪くて付き合いたくないですよね。
多くの場合,証拠がないまま「言った」「言わない」の水掛け論になってしまって,裁判にまでもつれ込むこともあります。
裁判になった場合,周辺事実から「言った」「言わない」のどちらが真実なのかを事実認定することになりますが,こういう間接事実を積み上げて立証する類型の裁判は証拠が膨大になり,時間もかかる上に,裁判官がどのような判断をするかが読めないところがあって,代理人弁護士としては非常に骨が折れる(=相応の弁護士費用を請求しなければならない)展開になりがちです。
言った言わないが争いになる場合の説明のための事例として,建築トラブルを挙げます。似たような問題はウェブサイトの作成契約でも発生します。
今回は建築トラブルを例にとり,なぜ、トラブルになりやすいのか、どうすればトラブルを防げるのか。
工務店側から見てこれらのトラブルを予防する視点をお話できたらと思います。
1 なぜトラブルが起きるのか?
2 どうすればトラブルを防げるのか?
3 それでもトラブルになった時には?
1 なぜトラブルが起きるのか?
まず、なぜ発注者とトラブルになるのかですが、いかんせん車の購入などとは異なり,建築物はこれから建てるのですから完成品を見て触って確かめてから発注することはできません。
素材の具合(色合い,質感)、仕上がりの状態(気になる継ぎ目,光の当たり具合による差異),工事の精緻性,生活動線のイメージ・・・。
実際に完成して中で生活をしてみないと、図面だけではわからないこともたくさんあります。
発注者側も工務店側もそれぞれ頭の中に一定のイメージをもっていますが,それが合致しているとは限りません。
頭の中はお互いに見ることができませんから,それを言葉なり図なりにして相手に伝えなければなりません。
そのため、イメージを共有しながらの細部を詰めることが重要になってくるのですが、だからこそ、言葉にならないイメージが合致せずにトラブルになってしまう。
家電や自動車(新車)とは違って規格が同じならばどれも同じ物というのではなく,10戸あれば10戸ともできあがる物が異なるわけですから、トラブルが生じやすいんですね。
完成時のイメージのズレ。
そのボタンの掛け違いが、最後まで争いの原因として尾を引くわけです。
また、発注者(オーナー)と、工務店の営業、そして経営者側・施行作業者(現場部門・下請業者など)と多くの人が介在し,その間のコミュニケーションが不十分なためにミスコミュニケーションが起きるという問題もあります。
そのために、「おたくの営業が○○と言ったじゃないか!」という言った・言わないのトラブルが生じやすいのです。
さらには、何度も何度も打ち合わせをしますので、
そんな中でミスコミュニケーションが生じてしまうこともあります。
回数が多く、チェックすべき事項が多岐にわたる点も、要因の1つです。
発注者と工務店との関係だけでなく,工務店から実際に作業する下請会社への下請でもコミュニケーションの齟齬が生じます。
「伝言ゲーム」で伝言ミスが生じるのと同じです。
つまるところ,口約束、記録に残さないことが最大の要因なんですね。
とくに、工務店と下請業者との間では,契約書さえ作らないことも多いものです。
見積書だけで数百万円,場合によっては数千万円の仕事を進めていくこともあります。
これらがトラブルを生じやすい大きな要因と考えられます。
2 どうすればトラブルを防げるのか?
では、どうすればトラブルを防げるのでしょうか?
工務店側としてできることは、なによりまずは記録(書面)に残すということです。
その場で双方で、当日話し合ったこと、
品番の確認などを書面(議事録メモ)に残して、
その場で確認して商談を終えるがベストです。
イメージのすり合わせが大事です。
できれば双方の署名があるといいですね。
そして、いまの時代はそれを書面だけでなく、
お客様と共有できるデジタルツール(メールやアプリなど)や双方にコピーを残しておくと、
なおよいでしょう。
他方,このご時世では,知らないところで録音されていることも覚悟しておかないといけません。
また、何をどこまでやる・やらないのかを残すのも大切です。
今度は程度の問題です。
どこまでなら、予算の範囲内でできるのか。追加費用が必要なのか。
この種の争いも多いものです。
現場でやり取りをすることが多くなってきている段階では、
とくに下請の職人さんも関わってきますから、争いになりやすいんですね。
だからこそ、書面に残す。
この局面でもトラブルを防ぐためには、
記録化が重要なわけです。
また、工務店側としては、営業担当者の探知センサーを機敏に働かせて、
事前の入念な説明と、
場合によっては要望をきっぱりとお断りをすることも必要になってきます。
その場しのぎの曖昧なことを言ってしまうと,後から大問題に発展する可能性があります。
誰が見ても一見して明らかな瑕疵(屋根に穴が空いて雨漏りするなど。)とは違って、
ちょっとした隙間やキズといった見た目の問題の場合は、
人の意識の差によって、問題ととらえるか認識が異なることもでてきます。
こうなると、双方の折り合いもつきにくく、
長く紛争化しやすくなってしまいます。
こうならないためにも、
工務店側としては、施工前や施工中に
例えばこの素材の場合は、こうなりやすい(例:しみになりやすい)、という説明をあらかじめオーナー側に説明しておくべきですね。
そして,どんな説明をしたかを記録化しておくことがここでも重要です。一種のインフォームド・コンセントです。
場合によっては、たとえ目の前のお客様を逃がすことになったとしても,お断りをすることも仕事だということを自覚されるべきかとは思います。
この点は,我々弁護士も同じビジネスパーソンとして心しておきたいところです。
3 それでもトラブルになったときには?
では、それでもトラブルになった場合には、工務店としてはどう対処すればいいでしょうか?
請負は,とかく請負人側(受注者側)に不利なことが多いところがあります。
元々は苦情レベルだったとしても,対応を誤ってクレームに発展することも少なくありません。
他方で,最近話題になるカスタマーハラスメントのように,最初から問題のあるお客様の仕事を受注してしまうこともありえます。
営業担当者としては経験に基づき避けるべきお客さんを嗅ぎ分ける嗅覚を働かせなければなりません。
元々,請負代金の中にそのようなクレーム対応のコストを想定しておくべきなのでしょう。
ある程度はアフターサービスのような形で無償修繕することもあるかもしれません。
それでも話し合いがつかず,過大な修繕を求められて話が先に進まないという事態に至れば、
その場合は、ぜひ弁護士等専門家にご相談ください。
発注者(消費者)側には消費生活センターなどの制度がありますが、
工務店側には相談できる窓口は少ないかもしれません。
ADRという、裁判外手続による紛争解決ルートもあります。
今後の新築受注のためにも、トラブル防止対策を見直すタイミングでもあります。
1件深刻なトラブルを抱えると,他にとるべき仕事を受注する機会を逃すことにもなりかねません。
トラブルを経営者おひとりで抱え込まないようになさってください。
トラブルが生じやすい業界であることは間違いないため,できれば顧問弁護士に日常的に法律相談できる体制をとることをおすすめします。