もしも親が認知症になったら? 成年後見(2) 成年後見人がやること
前回からの続きです。前回の申立に続いて,選任された後に成年後見人が何をするのかです。
3 成年後見人の職務
(1)身上監護と財産管理
成年後見人の主な職務は,大きく分けて二つです。成年被後見人(後見を受けている高齢者のことをいいます。)の身上監護と財産管理です。
身上監護とは,被後見人の生活や介護が立ち行くようにすることです。
後見人が自分で家事をしたり,介護をしたりする必要はありません。介護施設への入居の手配や,ケアマネージャーと契約をして介護プランを立ててもらい,ヘルパーさんと契約することで足ります。
財産管理とは,文字通り被後見人の財産を管理することです。
最も重要になるのは,預貯金の通帳を管理し,預貯金又は年金等の収入から,被後見人のために必要な支出をその預貯金通帳から支払っていくことになります。また,不動産があればその管理をし,賃貸物件を所有していれば家賃の改修や修繕などの手配をします(我々弁護士が管理する場合には,不動産会社に管理を委託するのが通常です。)
(2)裁判所の監督
成年後見人は,裁判所が選任した上その監督までするため,成年後見人の法的立場が安定し,業務遂行に対する監督が行き届きやすいという利点があります。
ただし,現在は成年後見の件数が増えているため,地域によっては家庭裁判所の物理的容量を超えているので十分な監督ができないのではないか,という指摘をする声も聞かれます。
裁判所という公的機関が業務遂行を監督することはメリットとでメリットが表裏一体です。
どうしても硬直的な運用になりがちで,後見人には財産を管理するにあたり裁量の余地があまりなく,必要最低限の収入と支出の管理(例えば,年金を受領して病院への支払いをするなど。)のみを行い,元本割れするリスクのある運用などはできません。被後見人が望む支出であっても,後見人と裁判所が協議した結果,支出が認められないことも多々あります。
ご家族が「(被後見人が)元気な時はこうしてくれといっていたので,お金を出してほしい。」というご要望を出されることもよくありますが,成年後見人と裁判所の板挟みとなってご要望にお応えできず,険悪な雰囲気になることもしばしばです。
もう少し具体的に言うと,成年後見人が費用を支出できるものは,基本的には,成年被後見人の生活に必要なお金に限られます。
それまで同居して生活費を被後見人の収入に依存していたとしても,親族の生活費を支出することは大幅に制限されます。例えば,親族を年金で養っていたとしても,その生活費を被後見人の財産から支出することも自由にはできなくなります。かといって,それまで養われてきたのにある日突然全く知らない第三者が成年後見人に選任されましたといって通帳の管理を始めることで支出できなくなります。
自宅不動産の修繕にしても,現状維持のための保存行為は支出できますが,改良行為には当然に支出できるわけではありません。バリアフリー工事は被後見人のための工事なので支出はできますが,過度に上等な設備を使用していないかなど,後で支出の妥当性について家庭裁判所の監督がなされる可能性があります。
その他,成年後見人をしていてよく問題になるのが,病院にお見舞いに行くときの交通費と,ご近所や知人・親族への慶弔費を被後見人の財産から出すことができないか,です。回答としては,一般的な基準しかありません。
①病院への交通費については,親族の愛情に基づく通常のお見舞いには交通費を出せません。成年後見人の依頼を受けて成年後見業務の補助のために病院に行ってもらうときには,交通費を出せる場合もあります。
②慶弔費については,支出の裏付けとなる証拠があれば,社会通念上相当な範囲で出せる,というものです。具体的には,個別の事情を勘案しなければならないので,そのつど考えることになります。
成年後見の場合には,どうしても支出が不自由になります。これに備えて,任意後見の制度があります。任意後見であれば,予め,誰々には1か月○万円の生活費を渡すこと,などと定めておくことができるからです。
そのほか,最近では成年後見制度のこうした硬直的な運用を嫌って民事信託を利用することも流行のようになってきています。
その方にとって何が最善かを検討するため,事前のプランニングが最も重要になります。
あまりネット情報などを鵜呑みにして自己判断せず,信用できる専門家に相談することをおすすめします。